牧野富太郎の愛した、稚木の桜


清らかな 姫の面影、ワカキノサクラ。

戦国の喧噪から遠く離れた西国で、山上の城主は独り、縁にいる。
春宵の杯にひとひらの桜が浮かぶ。
酒を注いでくれる妻も幼き姫ももういない。
遠くに琴の音、杯に月の火影。

城主は愛する姫の面影が忘れられず、永遠に稚児のままの桜を探せと命じた。
配下の者が諸国を訪ね、幾年もかけてやっと探し当てた。
芽が出て二年で花が咲き、人の背丈まで成長したが、それ以上は大きくならない。
城主はこの桜を我が娘のように可愛がり、門外不出としたまま、やがて滅んでいった。
山城は荒廃し訪れる者もいなくなったが、稚児のような桜は その地に生き続け。。。

そして・・・
牧野富太郎は里山の奥深く分け入り、いにしえの城址の一角で喬木に見事に咲く花を見つけた。
そう、この地は富太郎の故郷だったのだ。

高知県佐川町の稚木の桜(ワカキノサクラ)。
成長してもせいぜい樹高は三メートル。山桜の変種であるという。

2008年、稚木の桜は全国の名だたる巨桜と堂々肩を並べてエンデバー号に搭乗し、宇宙を旅した。
2009年、宇宙から帰還した種は、他の地に先だちまっ先に発芽し、世間を驚かせた。
そしてこの早熟な宇宙桜は、多摩へ、淡路島へと贈呈され、各地で花を咲かせている。

あくまで清らかな 宇宙の思い出を伝えるために。。。

(この物語りは谷山稜氏による創作です)

詳しくは、ドキュメンタリー 宇宙桜誕生秘話 をご高覧ください。