「ちがう!」
桜守は怒気を含んだ声で言いながら立ち上がった。
「こんなん、今どきのコンピューターで、切った貼ったでこさえたもんやろ!」
私が説明中のカラー刷りの美麗な資料を見下ろして、彼はこう言い放った。
「命っちゅうもんはな、こんな簡単なもんとちゃうで。ちょっと来てみぃ」
そして私は、庭にある圃場ほじょうに連れ出された。
京の晩春。地面には、暖かく、柔らかな陽が降り注いでいた。
「見てみぃ、これが何やか分かるか?」
それは一見、雑草と変わりない高さ三十センチほどの苗木だった。
誤って踏みつけられれば、それで終わってしまうであろう「いのち」。
小さな、はかない生命体。
しかし茎の中に明らかに真っ直ぐな芯が通っていて、凛として伸びている。
「桜はな、二年かかって、やっとこれや。簡単に花が咲くと思ぅてもろたら困る。宇宙へほっぽり出して花見やなんて、そうそう言うたらあかんで」
私は言葉もなく、己の浅はかさを思い知らされていた。
「花が咲くまでに十年。どうにか立派に育つかどうかを、見極めるのに三十年はかかる。それまでわしは生きちょらん。でも、こうして育ててるんや!」
京都桜守、十六代目佐野藤右衛門。
この偉人の熱弁をよそに、可愛らしい桜の樹は、ただあたりまえのように微風に揺れている。
それを見ていると突然、この人たちのやっていることの重大さが私には解った。
いのちの美しさを受け継いでいくこと!
それが、きぼうの桜の原点なのです。